紀三井寺にまつわる著名人

 

紀三井寺は、西国三十三ヶ所の第二番目の札所で、有名な歌人や文人がたくさん訪れ、紀三井寺にまつわる詩や文集がたくさん残されています。その中の一部ですが、ご紹介したいと思います。

● 夏目漱石     (A.D.1867〜1916)
《ことに有名な紀三井寺を蓊鬱した木立の中に遠く望む事が出来た。その麓に入江らしく穏やかに光る水が又海浜とは思われない沢辺の景色を、複雑な色に描き出していた》

《夕方になって自分はとうとう兄に引っ張られて紀三井寺に行った。これは婦人連が昨日既に参詣したというのを口実に、我々二人だけが行く事にしたのであるが、その実兄の依頼を聞くために自分が彼から誘い出されたのである。
 自分達は母の見ただけで恐れたという高い石段を一直線に上った。その上は平たい山の中腹で眺望の好い所にベンチが一つ据えてあった。本堂は傍に五重の塔を控えて、普通ありふれた仏閣よりも寂があった。(略)
 自分達は何物をも遮らないベンチの上に腰を卸して並び合った。
「好い景色ですね」
 眼の下には遙かの海が鰯の腹のように輝いた。其処へ名残の太陽が一面に射して、眩ゆさが赤く頬を染める如くに感じた。沢らしい不規則な水の形もまた海より近くに、平たい面を鏡のように展べていた》

〜夏目漱石「行人」より抜粋〜

● 湯川秀樹     (A.D.1907〜1981)
 「お寺は石段を何段も何段も、あがった高い所にある。私はひとり身の時と同じように足ばやに上って行った。ふりかえると、紫のコートを着て、中歯のげたをはいた妻は、おくれまいと息を切らしている。私はもはや、孤独な旅人ではなかった。助け合って歩んで行くべき道連れがあったのである。雨の中に桜は満開であった。」

〜湯川秀樹「旅人」より抜粋〜

● 有本芳水     (A.D.1886〜1976)
暮れゆく春の寂しさに
詠歌をたかく唱えれば、
涙ながれてとどまらず
老いにけらしな春の日も
 (略)
ああ鉦鳴らし鉦鳴らし
幾山河をいずくまで
急ぎ行くらん旅の子よ
せめて行衛を悟れかし
● 若山牧水    (A.D.1885〜1928)
麓には 潮ぞさしひく紀三井寺
        木の間の塔に 青し古鐘

 


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